嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも




 「遅れるよりはいいよね。」


 もう1度鏡で全身で確認した後に、緋色は部屋を出た。
 すると、今日も暑いようで午前中なのに、外に出た瞬間汗をかいてしまいそうな気温になっていた。

 けれど、緋色はそんなことを気にならないほど、緊張していた。
 エントランスで少し落ち着いてから彼に会おう。そう思っていた。


 「あ、緋色ちゃん………!」
 「………泉くん………。」


 それなのに、すでに泉はエントランスのソファに座っていたのだ。緋色を見つけて、すぐに立ち上がり、駆け寄ってくる。


 「少し早く着いたからエントランスで待ってたんだ。」
 「私も早く準備が出来たから………。」


 予想外の展開に、お互いに驚き、そして微笑みあってしまう。その雰囲気が心地よくて、緋色は少し緊張が解れたような気がした。


 「そのワンピース………。」


 泉がそう呟きながら、緋色が着ていたワンピースを見つめていた。懐かしそうに遠くを見つめるような、そんな表情だった。


 「………もう少し動きやすい服の方がよかったかな………?」
 「………いや、何でもない。よく似合ってて素敵だよ。可愛くて見惚れてたんだ。」
 「え………。」


 彼の表情を見て、少し心配になったけれど、泉はすぐにいつも通り優しく微笑んでくれる。そして、緋色に手を伸ばして手を握った。
 温かい手の感触に、1週間前のようにドキッとしてしまう。


 「もっとドキドキさせるって言ったでしょ?」
 「………そう、だけど………。」
 「さぁ、行きましょう。」 


 優しく手を引き、泉は微笑んだ。
 今日はこの人に任せれば、きっと楽しい日にしてくれるのだ。今まで、感じたことのない甘くて刺激的な日になりそうだと、緋色は予感していた。
 緋色はキュッと彼の手を握り返して、ヒールを響かせて歩き始めた。





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