嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
たった1時間でその人をわかるとは思わない。
けれど、この人と結婚して、笑顔で過ごせる姿を想像することは出来なかった。
緋色は、すっと静かにその場から立ち上がる。
「どうしましたか、緋色さん。」
「…………私、和食よりイタリアンが好きなんです。そして、甘いケーキも大好きなんです。」
「え…………。」
「好きなものを一緒に美味しいねって食べたり、楽しい事を声を出して笑って楽しめる人と結婚したいんです。………だから、ごめんなさい。」
「あ…………緋色さん!?」
緋色は深く頭を下げた後、逃げるように部屋から飛び出した。
目の前の料理よりも、仕事が大事なのかもしれない。それも、大切なことなのだろう。
けれど、緋色は折角作られた料理が冷めていくのも、自分の考えを聞いてくれないのも、嫌だなと思った。
お見合いは結婚相手を探すためのもの。
だったら、今回は断ろう。
そう思ったのだ。
「着物は走りにくいわ。」
緋色は後ろから慌てて追いかけてくる男から必死に逃げようと走っていた。
料亭で走るなど、マナーがなっていないなと思いながらも、男と話しをするのも嫌で、必死を足を進めていた。
今回は、お互いの親などは来ないで本人だけの食事の場だったので、それだけはよかったと思い、緋色はやっとの思いで料亭の玄関から飛び出した。草履が見当たらなかったので、足袋のままだが、仕方がない。