嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「あぁ………何かで切れてしまったのか、血が出てますね。」
「そう…………それぐらい、大丈夫だから手を離してくれない?」
「ダメですよ。このまま歩いて、傷が更に増えたり、菌が入ったら大変です。」
「でも、歩かなければどこにも行けない………。」
「すみません。失礼します。」
緋色が言葉を言い終わる前に、男は小さく頭を下げたかと思うと、緋色の体を軽々と抱き上げた。
「………あぁ…………ちょっと………!!」
ふわりの体が浮いて、そのまま彼の腕で抱かれてしまう。所謂、お姫様抱っこと言われる形で、その男に体を持ち上げられ、緋色は咄嗟に彼にしがみついてしまう。
「そうです。ちゃんと掴まっていてくださいね。」
「ち、違うわ!怖いから、掴んだだけよ。ねぇ、離して頂戴、お願いっ!」
「俺、力には自信があるので、大丈夫です。」
得意気に笑いながらそういう男に、緋色はすぐに反論する。
「そうじゃないわ。………は、恥ずかしいのよ。だから、下ろして………!」
「では、顔を隠しててください。タクシーが見つかるまで、こうしてますから。」
「もう、いいから下ろして!」
「ダメです。下ろしません。」
「…………………。」
ほんわかな雰囲気を持つ彼だったが、意外と性格は頑固のようだ。
ニコニコしながら、そう言った彼を見て緋色は諦めるしかないな、と思って彼の胸に顔を埋めて恥ずかしさを紛れさせようとした。
けれど、彼から香る甘い香りに、更に恥ずかしくなってしまうのだった。