嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
緋色の言葉を聞いて、すぐに何の事なのかを理解したようだった。
緊張した面持ちのまま緋色が小さく頷くと、望は少し考えた後に、ゆっくりと口を紡いだ。
「本当の事を話さないというのが、緋色の母である茜の願いだったんだがね。………その願いらを壊してしまうが私には迷いがあるのだよ。そして、緋色のためにも………。」
「…………お父様。」
その言葉は、父がどれほど母を大切にしているのがわかるものだった。緋色もわかっていた。いつも慰霊の前には綺麗な花とお菓子、そして紅茶が置いてあった。亡くなってから数年経っているのに、毎日欠かさず手入れをしているのを緋色は知っていた。だからこそ、本当に父は緋色が考えるような事をする人だったのか。そんな疑問を持っていたのだ。
もし勘違いならば、それを払拭して欲しい。そう思ってこの場に来たのに、父は話すのに迷いがあるのだ。
2人の約束ならば、緋色が何かを言う資格はないのではないか。
そんな風に思い、緋色を口を閉ざしてしまう。
すると、隣に座っていた泉が声を出したのだ。
それは彼らしいまっすぐで澄んだ声だった。