嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「楪さん………。茜さんは、楪さんと緋色ちゃんの仲が悪くなる事を望んではいないはずです。きっと、今の状態を見て心を痛めているはずです。それに、楪さんは緋色ちゃんに本当に話をすることで、辛い思いをさせてしまうのではないかと、心配なのですよね。」
「……………。」
「………今の緋色ちゃんならば大丈夫です。彼女は強く賢い女性です。だから、きっとしっかりと自分で考えて答えを出すと思います。それに、楪さんも茜さんも、緋色ちゃんが何よりも大切にしてきたのは、わかっているはずです。それに、もし苦しんでしまうのならば、今は俺が傍にいます。彼女を支え守るのは俺の役目なのですから。」
彼が何を言おうとしているのかはわからない。けれど、父が秘密にしていることを泉は知っているのだけはわかった。そして、父や母だけじゃなく、泉も自分を大切にしている事が………。
「俺の事は………今は、その時ではないと思います。ですから、茜さんの思いだけでも伝えてあげてはくれませんか?」
「…………泉くん?泉くんの事って、どういう……?」
彼の言葉が引っ掛かり、緋色は彼に問い詰めてしまう。その時ではないとは、どういう事なのか。
けれど、泉は優しく微笑みながら緋色を見るとゆっくりと首を横に振った。先ほど彼が言ったように、話すつもりはないのだろう。
戸惑う緋色に、泉は緋色の手をポンポンッと優しく触れた。
そんなやり取りを見て、父は安心したように微笑んだ。