嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも






 そんな順調な生活を過ごしていた、ある日の昼だった。
 取引相手の会社に書類を届けるために、緋色は街中を歩いていた。仕事中あまり外に出ることはなかったので、お昼頃の夏の日差しにクラクラしてしまいそうになる。仕事中に日傘をさすわけにもいかず、炎天下の中、15分ほど歩いた。

 汗が出てきてしまい、相手の会社に向かうまでには汗を抑えないといけない、と近くのファッションビルの化粧室で化粧直しをしながら涼んでいた。
 しばらくして、汗もおさまり化粧も共に戻ったので、また外へと出ようとした時だった。
 1階のカフェスペースで、見慣れた人を見つけたのだ。茶色のふわふわの髪に、整ったモデルのような容姿、そして宝石のような茶色の瞳。そんな彼が緋色がプレゼントし眼鏡をかけて、本を読んでいた。仕事中に偶然会えたのが嬉しくて、声を掛けようと店に近づいた時だった。
 


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