嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「え………あー、本当だ!女の人といるけど、もしかして結婚相手かな。可愛い人だね。」
「確かに可愛いね。やっぱり松雪選手ほどのイケメンの奥さんは可愛い人なんだねー。」
「…………。」
噂話をしていた2人は、しばらく話し込んだ後に、すぐにビルに外に出てしまった。
泉はすぐに結婚した事を明かしていた。けれど、相手は一般人のため何も公開はされていない。そのために、その噂話をしていた2人が勘違いしてしまうのも仕方がない事だった。
自分は泉より年上で、容姿だって自信がない。けれど、目の前にいる女性はとてもキラキラしており、とびきりの可愛い笑顔で泉と話をしている。
緋色はそれが辛くて、その場から駆け足で去った。
すぐに、隣りの取引先の会社に向かい、エレベーターに乗る。そこにあった全身鏡に写る自分を見て、緋色は大きくため息をついた。
地味な服装に、ポニーテールにした真っ黒な髪。そして、31歳らしい少しやつれた顔。
「………やっぱり泉くんと釣り合うような人間じゃないよね。」
そう呟いて、鏡に写る自分を見つめた。
はーっと息を吐くと、少しだけ鏡曇った。自分の姿が見えなくなり、安心しつつもそれが切なくなる。
「泉くん………楽しそうだったな。………あれは誰なんだろう………。」
ポーンと静かな機械音が鳴る。
もう1つため息を残して、緋色はエレベータから降りたのだった。