一生に一度の「好き」を、全部きみに。
だから『私』という人間を誰も知らない一般の高校への入学を決めた。
新しい自分になりたくて、極力病気のことは人に話さないでおこうと心に誓ったの。
『かわいそう』という目で見られることに、強い抵抗がある。普通の子として、見てもらいたかった。
それでも咲に話したのは、彼ならそんな目で私を見たりしないだろうなって思ったから。
だけどちがうのかも。咲は私に同情してあんな風にかばってくれたのかもしれない。瀬尾さんに綱引きを譲ったのも全部。
咲にだけは……憐れだから助けてやらなきゃなんて、そんな風に思われたくなかったよ。
どんよりと気分が沈んで、どんどん暗くなっていく。
「鳳く〜ん、さっきはありがとう!」
ホームルームが終わってぼんやりしていると、瀬尾さんの猫なで声が聞こえてきた。
打って変わってウキウキ顔で咲の元まできて、頬を紅潮させている。
「あたしのために綱引きを譲ってくれたんだよね? めちゃくちゃうれしかったよ〜!」
そっか……私のためじゃなくて瀬尾さんのためなのかもしれない。
「鳳くんって、実は優しいんだね」
「別に普通だろ」
「またまた、謙遜しちゃって〜!」
ふたりのやり取りを聞いていたら気分が沈んで、私は机に顔を伏せた。