一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「葵」
放課後になって教室を出ようとすると咲に声をかけられた。
「ん?」
「いや、その、大丈夫か?」
「…………」
「瀬尾たちに言われたこと、気にしてないかなと思って」
咲は優しい。それは前からわかってる。でもこの優しさは……。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「そうか? 俺にできることがあったら遠慮なく言えよ?」
やっぱり咲は『病気の私』を気遣ってくれているのかな。
そう思うと、素直に喜べない私がいた。
咲が出ていったあとの教室で思わずドアの方をずっと見ていた。
「ちょっと優しくしてもらえたからって、調子に乗らないでよね」
「ねー! ウザすぎー!」
瀬尾さんたちだ。冷ややかな視線は心のトゲを深くしていく。
私はとっさに目をそらしてスクールバッグを肩にかけると、そそくさと教室を出た。