一生に一度の「好き」を、全部きみに。
あまりにも近すぎるその距離に頭が一瞬フリーズする。でもすぐにハッとした。
「ほら、いくぞ」
無理やり手首をつかまれ、立ち上がらされる。そして強引に腕を引かれた。
「ねぇ、本当に大丈夫だってば!」
「俺が心配なんだよ」
廊下をすぎて階段に差し掛かる。咲は迷うことなく階段をおりて、保健室へ。だけど私を気遣ってくれているのか、歩くペースはかなり遅い。
握られた手首が熱くて、それだけで心臓がどうにかなりそうだ。
「なに立ち止まってんだ?」
「咲はどうしてそんなに心配するかなぁ。大丈夫だって言ってんのにさっ」
プクッと頬を膨らませて咲の顔を見上げる。
「咲のその気遣いは……同情から?」
眉を寄せながら咲は私に向き直った。
「私が病気だって聞いて、かわいそうって思った?」
「なんだよ、いきなり」
「同情、されたくない……かわいそうって思われたくないの。咲にだけは。だから私のことは放っておいて」
はっきり口にすると胸がズキズキした。
かわいそうな目で見られたくない。対等でいたい。咲にだけは特別視されたくないよ。
「そんなわけないだろ」
力強くてまっすぐな目が私をしっかりと捉えた。
「葵のことが心配だからだよ。病気のことはそりゃビックリしたけど、かわいそうだなんて思ってない」