一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「クールで冷たく見えるけど、実は優しい人っていうイメージ」
「優しくねーよ。ただ、みせしめみたいな瀬尾のやり方が気に入らなかっただけだ」
「へへ、そっか。でも、ありがとう……本当は私もリレーとか走る種目に出てみたい気持ちはあるんだけどね」
思いっきり走れたら、どんなにいいだろう。みんなと同じでいることが私にはすごく難しい。
「どうしてこんななんだろう。健康だったら、こんな風に悩むこともなかったのに……だから体育祭って、あんまり好きじゃないんだよね」
こんなことを言っても困らせるだけなのに咲を前にすると止まらなかった。
複雑そうにしかめられる横顔。今さら後悔しても遅い。そんな顔をさせたかったわけじゃないのに……。
「ごめん、変なこと言ったね。リレー応援してるから、がんばって! あ、借り物競走にも出るんだっけ? 走ってばっかだね」
「うん。走るのは嫌いじゃないから」
「そうなんだ」
ちょっと意外だな。
だけど咲のことが知れてうれしい。
きっと、咲だから……。
こんなにもうれしい。
「うっ」
ティッシュに浸した消毒液が指先に当てられヒリヒリした。
咲は私の目の前に立っていて、距離が近くて恥ずかしすぎる。
「しっかり消毒しなきゃな」
「い、痛いってば」
「我慢しろ」
「ううっ」
簡単な消毒だけだったけど、ドキドキしすぎて落ち着かなかった。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。咲に対してだけ、私の心臓は変に反応する。