一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「葵、大丈夫だったの?」
教室に戻ると花菜が真っ先に駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫だよ、ありがとう」
「よかった。そういえば鳳くんは? 一緒じゃないんだ?」
「あ、なんか途中で黒田くんに呼び止められて職員室にペンキ取りにいくって」
さっきまで作業していた席に着き、ハチマキを手にする。花菜も同じように向かい側に座った。
「戻ってこれたんだー?」
「てっきりまた面倒なことから逃げたんだと思ってた。お嬢様だからって、なにをしても許されると思ってそう」
「っていうか、指に針刺したくらいで保健室にいくってどうなの?」
「あはは、ないよねー!」
瀬尾さんたちが座っている方からクスクスと嘲笑う声が聞こえる。
ざわざわ騒がしいのにクリアに聞こえてくるその言葉は、きっと私に向けられている。
心臓がヒヤッと冷えたような感覚に見舞われて、顔を上げられない。
「お嬢様はお嬢様らしく、お嬢様学校に通っていればよかったんだよ。一般の高校にきてお嬢様風吹かせたかったのかもしれないけど、ひとりだけ明らかに浮いてるよね」
「わかる〜! うちらを見下してる感じ?」
「どうせ心の中では、うちら庶民のことをバカにしてるんでしょ」