一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「うっ」
だんだん意識が戻ってきて、ぼんやりしていた頭が現実味を帯びてきた。
あれ、そういえば私……。
ゆっくり目を開けると見慣れない真っ白い天井が目に入った。
胸の痛みは……ない。
あんなに胸が痛かったのに……私。
生きて、た……?
「葵!」
ふと近くで声がした。右手に感じる違和感に、ゆっくりと顔を動かしてそこへ目をやる。
「さ、く……?」
意識を失う直前に聞こえた声は、咲の声によく似てた。
もしかして、あれは咲だったのかな。
「大丈夫か? どっか痛いとこは?」
「わ、私、倒れた、の?」
瀬尾さんに話しかけられたところまでは覚えてるけど、そのあとの記憶は曖昧だ。
見たことがないくらい眉の下がった咲の顔。
いつもは強気な瞳が不安げに揺れている。
「そうだよ。で、俺が保健室まで運んだ。平木っていうおっさんが飛んできて、お前に薬飲ませて落ち着いた。気分はどうだ?」
そっか、ここは保健室なんだ……。
「もうなんともないよ」
窓から入ってくる風がカーテンをはためかせる。
そういえば体育祭の途中だったよね?
「ねぇ、リレーはどうなったの……? 咲、アンカーだったよね? 体育祭、終わっちゃった?」
起き上がろうとすると咲に肩をつかまれた。