一生に一度の「好き」を、全部きみに。

歌声だけではなく、咲は地声も透き通っている。皮肉だけど、悪態をつかれて気づかされるなんて。

「どうしたの?」

「なんかあったか?」

「さっき、ライブ観てました……!」

ここに入ってきたときに気づくべきだったんだ。ここがライブハウスだということに。

よく見ると楽器ケースやドラムが置いてあって、どうやらここは控え室のようだった。

「マジ? 観てくれてたんだ?」

「はい!」

感動して泣いてしまったけど、なんとなくそれを言うのは恥ずかしい。

「見ろ、やっぱりストーカーじゃねーか!」

「咲、おまえはまたそんなこと言って」

敵意丸出しの彼は、鋭く私を睨んでくる。

「兄貴は甘すぎるんだよっ」

「たしかに(るい)は優しすぎるよな」

「でも、俺はそんな類が好きだ」

咲のお兄さん、類さんはひとことで表すと王子様系のイケメン。全体的に優しい雰囲気をまとっている。

一方、咲は感情任せに突っ走るタイプで、クールで無愛想。ストーカーだと決めつけてかかってくるところは、いかにも頑固で融通がきかなそう。

こうだと思ったら自分の意見は曲げないで無理にでも押し通すような、傍若無人さがうかがえる。

トゲトゲしく鋭いオーラを放っており、最初から私を疑うような目つきで見ているし、失礼なヤツだ。

それでもかなり整った顔をしていて、さっき女の子に騒がれていたのもルックスだけ見れば納得がいく。

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