一生に一度の「好き」を、全部きみに。

「なにもされてないよ」

「…………」

身体は離してくれたけど、腕は腰に回されたまま。じとっとした目で見られた。

「手首つかまれてただろ。他に触られたとこは?」

「ないよ……」

どうして不機嫌そうなのかな。友達だから心配してくれてるだけ?

「腕、赤くなってんじゃん」

視線が手元に落とされ、つられて私も自分の手首を見た。

「本当だ」

くっきりと赤い跡が残ってる。見るとヒリヒリしてきた。

「ムカつく」

え……?

疑問に思ったと同時に咲の手が私の腕をつかんだ。そしてそれを口元まで持っていき──。

チュッ。

手首に唇が触れた。目を伏せた顔がきれいで、まるで王子様のよう。

なにが、起こってるの。

わけがわからない。ううん、わかる。わかるけど、頭が追いつかない。これは現実?

それとも夢……?

「消毒完了」

イタズラッ子のような笑みを向けられて、こんな顔もするんだって。

一瞬にして咲のことしか見えなくなった。

「って、やりすぎか。こんなガラじゃないのに、なにやってんだ、俺……」

今になって恥ずかしそうにする咲に反応しちゃいけないのに、ときめいてしまう。

「あいつの跡があるのが、どうしても我慢できなくて」

ボソボソと照れくさそうにつぶやきながら、視線を右往左往。

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