一生に一度の「好き」を、全部きみに。

咲の歌声が聞こえたのと同時に、一斉にスポットライトが灯った。

「きゃあああ!」

「咲くーん!」

咲の歌声はどこまでも澄んでいて、伸びやかで。ゾクゾクと全身に鳥肌が立った。

やっぱり咲の歌声がすごく好き。

歌声だけじゃない。

咲の全部がすごく好きだよ……。

じわっと涙が浮かんで慌てて拭う。

スタンドマイクの前に立ち、ギターを器用に操る咲はまるで別人。ちょっと乱れた髪の毛と、前髪の隙間から覗く力強い瞳。

いつも以上に見惚れてしまって目が離せない。

「ちょっと、めちゃくちゃうまいじゃん」

「だろー? あいつの親、ボイスレッスンの講師やってんだよ。有名な歌手を何人も輩出してきた超人気講師らしい」

「へえ、すごいね」

翔くんと花菜のやり取りを聞きながら、咲に惹きつけられる。

ステージにいる咲はすごく遠い人のように思えた。

それにね、やっぱり私がいることには気づいていないと思う。

人気者の咲と地味な私は不釣り合いすぎる。ここにいるとそれをまざまざと感じた。

ここにきたこと、まちがいだったかな。今になって怖じ気づいて、弱さが見え隠れするなんて。

< 155 / 287 >

この作品をシェア

pagetop