一生に一度の「好き」を、全部きみに。
咲の歌声が聞こえたのと同時に、一斉にスポットライトが灯った。
「きゃあああ!」
「咲くーん!」
咲の歌声はどこまでも澄んでいて、伸びやかで。ゾクゾクと全身に鳥肌が立った。
やっぱり咲の歌声がすごく好き。
歌声だけじゃない。
咲の全部がすごく好きだよ……。
じわっと涙が浮かんで慌てて拭う。
スタンドマイクの前に立ち、ギターを器用に操る咲はまるで別人。ちょっと乱れた髪の毛と、前髪の隙間から覗く力強い瞳。
いつも以上に見惚れてしまって目が離せない。
「ちょっと、めちゃくちゃうまいじゃん」
「だろー? あいつの親、ボイスレッスンの講師やってんだよ。有名な歌手を何人も輩出してきた超人気講師らしい」
「へえ、すごいね」
翔くんと花菜のやり取りを聞きながら、咲に惹きつけられる。
ステージにいる咲はすごく遠い人のように思えた。
それにね、やっぱり私がいることには気づいていないと思う。
人気者の咲と地味な私は不釣り合いすぎる。ここにいるとそれをまざまざと感じた。
ここにきたこと、まちがいだったかな。今になって怖じ気づいて、弱さが見え隠れするなんて。