一生に一度の「好き」を、全部きみに。
もうやめよう。ツラいけどなかったことにして、全部を忘れよう。
もう一度咲の歌声が聴けてよかった。
これでまた私はがんばれる。それだけで十分だから。
咲たちの出番が終わると私たちは会場を抜け出し、ロビーで一息つくことにした。
ずっと立ちっぱなしだったから足が重い。
「葵、ちょっと待っててね。黒田、こっちきて」
「え、なに? 愛の告白?」
「ふざけてないで、早くきて」
「はいはーい!」
私をひとり椅子に残したまま花菜と翔くんは私から離れていった。頭を寄せ合い、なにやらゴニョゴニョ話している。
なんだろ?
ちょっと怪しい。
そういえば、さっき花菜は一肌脱ぐとかなんとか言ってたよね。
やめてもらわなきゃ。
もう忘れるって決めたんだから。
立ち上がりそばへいこうとすると。
「きゃああああ!」
ロビーに悲鳴に近い歓声が沸いた。
前から歩いてくる人に目が釘付けになる。
「ねぇなんで、咲くんが?」
「わかるわけないじゃん!」
「やばい、近くで見てもホントかっこいい!」
今忘れようって、そう決めたばかりなのに……。
姿を見ると決心はすぐに鈍りそうになる。