一生に一度の「好き」を、全部きみに。

もうやめよう。ツラいけどなかったことにして、全部を忘れよう。

もう一度咲の歌声が聴けてよかった。

これでまた私はがんばれる。それだけで十分だから。

咲たちの出番が終わると私たちは会場を抜け出し、ロビーで一息つくことにした。

ずっと立ちっぱなしだったから足が重い。

「葵、ちょっと待っててね。黒田、こっちきて」

「え、なに? 愛の告白?」

「ふざけてないで、早くきて」

「はいはーい!」

私をひとり椅子に残したまま花菜と翔くんは私から離れていった。頭を寄せ合い、なにやらゴニョゴニョ話している。

なんだろ?

ちょっと怪しい。

そういえば、さっき花菜は一肌脱ぐとかなんとか言ってたよね。

やめてもらわなきゃ。

もう忘れるって決めたんだから。

立ち上がりそばへいこうとすると。

「きゃああああ!」

ロビーに悲鳴に近い歓声が沸いた。

前から歩いてくる人に目が釘付けになる。

「ねぇなんで、咲くんが?」

「わかるわけないじゃん!」

「やばい、近くで見てもホントかっこいい!」

今忘れようって、そう決めたばかりなのに……。

姿を見ると決心はすぐに鈍りそうになる。

< 156 / 287 >

この作品をシェア

pagetop