一生に一度の「好き」を、全部きみに。
夜なのに駅前は明るくて、たくさんの人であふれていた。
「ライブどうだった?」
優しい瞳が私を捉える。今までギクシャクしてたのがウソのよう。
「よかったよ。咲の歌声にも感動した」
「前と同じような感想だな」
皮肉めいた声だったけど、その横顔はうれしそうだった。
「突然きてごめんね」
「いや、葵の姿見つけたときはうれしかった」
「…………」
どう反応すればいいかわからなくて黙り込む。
そのあと無言で歩いていると人にぶつかりそうになって、それを避けたら隣にいた咲の腕に肩がぶつかった。
一瞬だけど、指先も触れた。
「ごご、ごめんっ!」
ギュッ。
返事の代わりに咲の手が私の指に絡む。反動で見上げた横顔は真っ赤だった。トクントクンと心地いいリズムを刻む心臓。
こちらを向くことなくただまっすぐ前を見据えている咲に声をかけられなくて、手を繋ぎながら夜道を歩いた。
涙が出そうなほど幸せな時間。
できるなら、この手を離したくはない。
ずっと繋いでいられたら、どんなにいいかな。
駅から離れた閑散とした住宅地の中の小さな公園にくると、さっきまでの喧騒が嘘みたいな静かな時間が訪れた。
そのせいか、やたらと緊張感が高まる。
やだ、手汗かいてないかな。
神経が全部そこに集中して、ものすごく熱い。
真っ暗な中で街灯だけが頼りだ。
ベンチに並んで座るとようやく手が離れた。
「わかってると思うけど、俺は──」
風がサーッと通り抜ける。
木の葉がざわざわとこすれる音がした。
「葵が好きだ」
「……っ」