一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「いえ、べつに」
「ちっ」
年齢を言われてから改めて観察すると、態度や言動が子どもっぽい気がしないでもない。
私に向かって舌打ちした咲はプイと顔を背け、スマホの画面を凝視する。
伏せた目から長いまつ毛が伸びていて、これでもう少し愛想があれば、いうことないんだけど。
肩身のせまい私にそんなこと言えるわけないけど、それでも初対面の相手にここまで敵意を向けてくるってことは相当な警戒心の持ち主なんだろう。
「ごめんね、こいつ、態度が悪くて。性格は難ありでも、この容姿だろー? 女の子からモテまくりの中学校生活を送ってるうちに、すっかり女嫌いになっちゃってさ」
「おい、余計なこと言うなよ」
「ホントのことだろ。熱狂的な子にストーカーまがいのことされたり、至るところで待ち伏せされて何度も告られたり、よく私物がなくなったりして、大変だったじゃん」
類さんはどうやら咲のことを心配しているようだった。冗談っぽく笑って話しているけど、目は真剣だ。弟を想う兄って感じ。
咲は終始ふくれっ面で、そんな類さんの心の内なんて露知らずというようにふてくされている。
それにしても、そんなにモテるんだ……?
私は改めて室内をぐるりと見回した。
片側の全面が鏡貼りで、そこには冴えない自分の姿が写っている。さっき細い道を通ったせいで、グレーのパーカーがところどころ汚れていた。
知らない間に顔も汚れていて、パーカーの袖でそれを拭う。
血色の悪い青白い顔に、やせ細った華奢な身体。
背中までのストレートの黒髪と、ぱっちり二重まぶたの瞳にスッと通った鼻筋。どこにでもいるような平凡な私は、この中ではすごく浮いてしまっている。
なにをやってるんだろう。
なにがしたいんだろう。
こんなことをしたって、なにも解決しないのはわかってる。