一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「よいしょっ、と」
窓枠に足をかけ芝生の上に着地する。遠くではカラスの鳴き声がした。
サッと周りを見渡してみたけれど人の気配はない。
忍び足で屋敷の庭の抜け道を通って、敷地の外へ。何度か振り返って後ろを見ても、シーンと静まり返っているだけ。
「ふぅ……うまくいった」
住宅地を歩いて駅の方へ。どこでもいいから、気が紛れる場所にいきたい。
夕方、日が沈み始めたからなのか昼間のような暑さはない。
駅に着くと人通りが多くなり、いつもよりも学生の姿がたくさんあった。
みんな笑って楽しそう……。
それなのに、私は……。
なんて、またネガティブ思考になってる。
目の前を高校生くらいのカップルが通りすぎた。お互いにまだぎこちなくて初々しい雰囲気だ。
もし私が病気じゃなかったら、今頃私と咲もあんな風になっていたかもしれないんだ……。
忘れようとしても頭に浮かぶ咲の顔。
外に出たからって会えるわけがないのに、なにを期待してるっていうの。