一生に一度の「好き」を、全部きみに。
結構重ためなこと言ったんだけど……。
ふと視線を下げると、咲が手にした本のタイトルの数々が目に飛び込んできた。
『拡張型心筋症の解剖から治療まで』
『一から学ぶ心臓の構造』
『心臓移植についての解説』
「それ」
自然ともれた声に咲はバツが悪そうな表情で、手を後ろに隠した。
「葵のこと理解しようと思って」
「…………」
どう、して?
「俺、なんも知らなくて……無知だから。せめてこんくらいは……しなきゃなと」
徐々に小さくなってく不安気な声。
そんな風に思ってくれていたなんて……。
「で、お前はなにしてんの?」
「わ、私は」
「また家出か?」
「ちがうよ、そんなんじゃないから」
あんなことがあったなんてウソみたいに、私も普通に返せてる。
私に気を遣わせないための優しさ……?
よくわからないけど、この数日咲のことしか考えられなかったから、なんだか拍子抜けしたというか。
もっと気まずくなると思ってたのにちがうんだ。