一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「つか、出歩いてて平気なのか?」
「え?」
「見張られてるんだろ? スーツのおっさんに」
「大丈夫、抜け出してきたから。あ、家出じゃないからご心配なく!」
「は?」
「いちいちそんなに驚かないでよ。もう帰るんでしょ? 私、まだウロウロするから。じゃあね」
一緒にいると数日間モヤモヤしていた気持ちがあふれ出しそうで、怖かった。
やっぱり会うとダメだなぁ。気持ちが一気に引き戻されて、今まで以上に咲のことしか見えなくなる。
漫画コーナーまで足を伸ばして、ズラッと並んだ少女漫画のジャケットを流し見しながら、落ち着けと自分に言い聞かせた。
十分ほど店内を適当に歩いて、咲の姿が見えないことにホッと息をつく。
結局なにも買わずに本屋を出たのだけれど、入口近くの壁に背を預けながら立っている人物を見つけてピタリと足が止まった。
「なんでまだいるの?」
スマホからこっちに視線が向けられる。
「なんでって、心配だからだよ」
咲の手には重たそうな、恐らく医学書が入っているであろうビニール袋が握られている。