一生に一度の「好き」を、全部きみに。
あれからずいぶん時間が経ったような気がするけど、もう外に出ても大丈夫かな。
「あ、あの、あなたは……帰らないの?」
「は? 俺?」
「だ、だって、類さんと兄弟なんですよね……?」
一緒に帰ったりしないの?
「あいつ、俺におまえのこと見てやれっつって帰ったから」
「え?」
あいつ?
「類が」
類さんが?
「おまえ、本気で困ってるみたいだし?」
「え、あ」
それはごもっともなんだけど、なんだろう、咲からさっきまでのトゲトゲしさが抜けている。
口調もずいぶん柔らかくなったかもしれない。
急にどうしたんだろう。
「さっきのおまえ、周りが見えないくらい悩んでるっぽかったし」
「あ、はは。まぁ、そうですね」
「同い年なんだろ?」
「え?」
「だったら、その敬語やめろ。むず痒いんだよ、敬語で話されると」
「あ、はい……じゃなくて、うん!」
さっきよりも咲との会話が成り立っていることに、ホッとする。
「おまえ、ワケアリなんだろ?」
「葵……」
「え?」
不機嫌そうに歪む咲の表情。顔が整っているだけに、思わず怯みそうになる。
「葵だよ、私の名前。おまえって呼ばれるのは、好きじゃない」
「ち、めんどくせーな」
そう悪態をつきながら、咲は律儀にも「葵」と言い直した。