一生に一度の「好き」を、全部きみに。

あれからずいぶん時間が経ったような気がするけど、もう外に出ても大丈夫かな。

「あ、あの、あなたは……帰らないの?」

「は? 俺?」

「だ、だって、類さんと兄弟なんですよね……?」

一緒に帰ったりしないの?

「あいつ、俺におまえのこと見てやれっつって帰ったから」

「え?」

あいつ?

「類が」

類さんが?

「おまえ、本気で困ってるみたいだし?」

「え、あ」

それはごもっともなんだけど、なんだろう、咲からさっきまでのトゲトゲしさが抜けている。

口調もずいぶん柔らかくなったかもしれない。

急にどうしたんだろう。

「さっきのおまえ、周りが見えないくらい悩んでるっぽかったし」

「あ、はは。まぁ、そうですね」

「同い年なんだろ?」

「え?」

「だったら、その敬語やめろ。むず痒いんだよ、敬語で話されると」

「あ、はい……じゃなくて、うん!」

さっきよりも咲との会話が成り立っていることに、ホッとする。

「おまえ、ワケアリなんだろ?」

「葵……」

「え?」

不機嫌そうに歪む咲の表情。顔が整っているだけに、思わず怯みそうになる。

「葵だよ、私の名前。おまえって呼ばれるのは、好きじゃない」

「ち、めんどくせーな」

そう悪態をつきながら、咲は律儀にも「葵」と言い直した。

< 18 / 287 >

この作品をシェア

pagetop