一生に一度の「好き」を、全部きみに。
結局、部屋を抜け出したことはすぐに平木に知られてしまい、電話がかかってきた。
それでも帰りたくないと言い張る私を上手になだめてから、咲は屋敷の前まで送ってくれた。
咲はひとつも悪いことなんてしてないのに、門の前で行ったり来たりしながら私を待ち構えていた平木に、ペコッと頭を下げる。
平木は冷静な目で咲を見下ろしていた。
「すみません、遅い時間まで連れ回して」
「ちょっと、咲。ちがうじゃん」
私が帰りたくないってゴネたから。
「いいから。別に変なこととかなんもしてないんでっ!」
「ちょ!」
なんてこと言うの!
「変なことって、当然でしょう。お嬢様はまだ高校生なのですから、そういうことはきちんと」
「あー、はいはい。説教はあとにして。とりあえず、ごめんね。送ってくれてありがとう」
「ああ、じゃあまたな!」
「また? また会うんですか? お嬢様」
「いいから、ほら早く、中に入るよ」
いちいち大げさなリアクションをする平木の腕を引っ張る。
手を振ると咲は小さく微笑んで、平木に向かって頭を下げてから走り去った。
ベッドに入るとスマホが鳴って開いてみると咲からのメッセージだった。
【家着いた。全力で走ったから汗だく】
不思議。たった数時間前までは絶望的な気持ちだったのに。今は咲からのメッセージにこんなにもニヤけてしまっているなんて。
私ってこんなに単純だったんだ。
【お疲れ様。ごめんね。ありがとう】
【バーカ】
メッセージひとつに胸がときめく。
どうしよう。咲のこと、どんどん好きになってるよ。
【今日が記念日な!】
【記念日?】
【付き合った記念日】
八月十三日。
その日は咲と私の大切な日になった。