一生に一度の「好き」を、全部きみに。

弱さと本音


冬がすぎ去って春がきた。桜の花びらがひらひら舞う中、私は屋上にいた。

「やっぱここにいたのかよ!」

背後から人の気配がする。私は振り返ることなく景色を眺めていた。

「シカトすんな、こら」

「見て。桜の花びらが舞って、すごくきれいだよ」

「え、桜?」

同じように咲が下を見る。二年生になってまだ数日だけど、背が伸びてますます男らしくなった気がする。

「マジできれいだな」

「あ、ねぇ! 写メ撮ろうよ、一緒に!」

ブレザーのポケットからスマホを出して高く掲げる。

「俺、写メ嫌い」

「そんなこと言わずにさ。お願い!」

こう言えば咲はしぶしぶながらも応じてくれる。

だって、思い出は多い方がいいもんね。

「撮るよー!」

カシャ

写メの中の私は満面の笑みで、咲は少し仏頂面。

それでも大切な宝物。ホーム画面に設定したら「やめろ」って言われちゃった。いや、やめないけどね。

「咲と出会って一年か。あっという間だったな」

「そうだな」

サーッと春風が吹き抜ける。隣には当たり前のように咲がいてくれて、いないとなんだか落ち着かない。

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