一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「やっぱわけわかんねーわ」
「ふふっ、それでもいいよ」
未だに怪訝な表情を浮かべる咲は、やれやれといった様子。
「マジでめんどくせーし」
「ふふっ……あは」
「だから、なに笑ってんだよ」
「べつに、なにも」
「わけわかんねぇ」
お手上げだとでもいうように肩をすくめる咲。そして持て余すほどの長い足を組み換え、ため息を吐く。
中身は子どもっぽいけど見た目は大人っぽくて、この姿だけ見たらとても同い年には見えない。
その上、アイドル顔負けの完璧すぎるほど整った容姿。
ここまで顔のパーツが完璧に整った人を目にするのは初めてだ。
「あの、ホントにいろいろありがとう。私、咲の歌声だけは……なにがあっても絶対に忘れないから」
「は、大げさだな」
「ううん。勇気、もらえたから……!」
それだけでまたがんばってみようかなって、精いっぱい生きてみようかなって、ほんの少しだけそう思えたんだ。
「葵、か。変なヤツだな」
「名前、覚えてくれてありがと」
「単純な名前だからな」
「ふふ、そうだね。じゃあ、私、そろそろ行くね」
「……勝手にしろ」
「うん! ありがとう」
そう言って立ち上がると、私は咲に深く頭を下げて来たときと同じ裏口から外に出た。
しばらく細い路地を歩くと大通りに出て、そこにはたくさんの人が行き来している。
「まったくもう……探しましたよ」
そう聞こえたのと同時に肩に手を置かれ、私の身体はありえないほどビクッと揺れた。
ゆっくり振り返ると、そこにはたくさんのスーツ姿の大人の男性たち。
ああ、終わった……。
さっきまで高揚していた気持ちが一気に氷点下にまで落ちていった。