一生に一度の「好き」を、全部きみに。
不安定な現実〜咲side〜
『死にたくない』
そう言って泣いた葵は小さな子どものようで、俺が守ってやらなきゃって、無意識にそんな気持ちにさせられた。
芯がまっすぐでブレない強さを持ってる葵だけど、目の奥にはいつだって不安が見え隠れしていた。
死への恐怖。生への執着。誰もが当たり前のように持っているであろう感情。
でも、葵は死なない。死ぬわけがない。信じることしかできない俺は、葵の目にどんな風に映っていただろう。
川沿いの土手で葵が泣いた日から一週間。
葵は教室にいても机に伏せていることが多くなった。顔色が悪くて、唇も紫色で血色がいいとはいえない。
息苦しそうに肩で呼吸していることもある。でもどんなときでも、葵は笑顔を崩さなかった。
「保健室連れてってやる」
「ごめ、ん。ありがと」
抱きかかえると見た目以上に軽い葵にヒヤッとさせられた。
大丈夫、だよな……?
葵は死なない。死ぬはずない。信じてるって、そう言った。
だけどもしかしたらって、そんな風に考えている俺がどこかにいる。
情けないな、やめろ。葵が死ぬわけないだろ。
俺が言ったのに信じないでどうするんだよ。
教室に戻る気になれず、葵のそばでずっと手を握っていた。