一生に一度の「好き」を、全部きみに。

やばい。

なんだこれ。

葵といるとかき乱されてばかりで、落ち着かなくなる。

負担になるようなことはしたくないのに、触れたくて仕方ない。

ギリギリのところで保った理性を抑えるのに必死とか笑える。

それにしても、あいつ、大丈夫なのかよ……。

いや、不安になるな。考え出すと止まらなくて、モヤモヤしてくる。

俺がこんなんでどうするんだよ。

頭を左右に強く振って、駆け足で教室へと急ぐ。

余計なことは考えるな。

目の前の葵だけを見ていればそれでいいんだ。

「あ、咲! 見ろよ、これっ!」

廊下でたむろしていた翔が、輪から抜け出し駆け寄ってくる。

手にはスマホが握られていて、うれしそうに画面を俺に見せてきた。

「俺が投稿したお前のギターと歌だよ! バズッて再生回数数万超え! 一般人なのにすげーよ!」

画面の中には夏にライブをしたときの俺の姿があった。サビの部分で一番ノッてるところ。やたらと俺だけがズームで映っている。

「はぁ? お前……なに勝手なことしてんだよ」

「俺が隠し録りした動画。コメント欄もやべーよ! これがきっかけでデビューが決まっちゃったりして!」

「いいか、今すぐ消せ! 俺はデビューとか興味ないんだよ」

そう言い捨て、教室へ。

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