一生に一度の「好き」を、全部きみに。

でも、だからってどうってことはない。

「おーい、咲ー。メシー!」

ガチャとドアが開いて兄貴が顔を出す。

「勝手に入ってくんなよ」

「なんだよ、エロ動画でも観てたのか?」

ふざけたようにスマホを覗きこんでくる兄貴。

「あー、その動画なぁ。俺んとこにも回ってきたわ。翔だろ? あいつ、お前しか撮ってないんだもん」

どうやら兄貴も知ってるらしい。

「けど、こうやってどこの誰だかわかんないヤツが俺らの曲聴いて元気出たとか、前向きなコメントくれてんの見たら、もっとがんばらないとって思うよな」

「まぁ、な」

「お前、プロ目指してんの?」

「俺は別に」

「だよなー、咲のガラじゃないよな。ま、俺はプロのベーシスト目指してるけどね!」

「そうなのか?」

「現実はそんなに甘くないけど、本気でやりたいことやらない人生なんてつまんないからさ」

兄貴はやりたいことが明確で、はっきりと自分の意思を押し通す頑固者だ。

だからいつも楽しそうで、失敗しても人のせいにしたりはしない。

精いっぱいやって悔いのないように生きてきたからだろう。

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