一生に一度の「好き」を、全部きみに。

咲の声、好きだな。

聴いていると心が落ち着いて、穏やかになる。できればずっと聴いてたい。そしたら不安なんてどこかに消えて、笑える気がする。

「うっ」

ズキッと胸が痛んだ。薬を飲んでいても、負担になるようなことをしなくても、こうやって痛むたびに実感させられる。

あとどれくらい持つかな。

いや、ダメダメ、変なこと考えるな。楽しいことを考えよう。だってほら、今は咲の声にこんなにも癒やされてるんだから。

もうすぐ中間テストかぁ。

それが終われば体育祭だ。

体育祭のあとは期末テストがあって、次に夏休みがある。

せめて一学期の間だけでも、ちゃんと通えたらいいのにな。

楽しい記憶で埋め尽くせば、なにがあっても大丈夫だと思うの。いいことも悪いことも含めて。

またウトウトしていたらしい。

スマホの音でハッとした。

で、電話……?

ロクに相手を確認せずにタップしてスマホを耳に当てた。

「もしもし」

『葵?』

「咲?」

『おう。今大丈夫?』

「うん、ゴロゴロしてたところ」

『そっか。体調どう?』

「よくなったよ。今日はずっと寝てた」

『そっか、よかった』

咲……。

心配させちゃったよね。

声の様子から、めちゃくちゃホッとしたのが伝わってきた。

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