一生に一度の「好き」を、全部きみに。

「はぁ、苦し……っ」

酸素マスクをしていないと、私の体には酸素が行き渡らなくて息ができなくなる。

食欲もなくなって、病院食も口をつけられない日々。

それでもスマホで翔くんが配信してくれたライブ配信を観たら、そんな気持ちはどこかに飛んでいった。

どこまでも伸びやかで、聴いたら魂が震えるような咲の声がすごく好き。

心が震えるその瞬間、ああ、生きてるって実感させられるんだ。

二十分間の映像の中に咲の魅力すべてが詰まっていた。

ほらね、私の言った通りだよ。咲の歌は聴く人すべてを魅了する。

『えーっと、突然なんですが。俺には彼女がいます』

ライブの途中で咲が曲間にそんなことを語りだした。

『今日は諸事情があって参加してないんですが、次の曲は彼女を思い浮かべながら自分で作った曲です』

ウソ……。

思わずスマホを凝視する。どこか照れくさそうに笑う咲は、いつも私の前にいる咲だ。

会場からは雄叫びのような悲鳴が上がった。

『咲のヤツ、やるじゃん』

『愛だね、愛』

『花菜ちゃん、俺もたっぷり愛はあるからね! 花菜ちゃんのことマジだからね!』

『はいはい。とりあえずライブに集中しようか』

翔くんと花菜の声まで聴こえてきた。会場にはいないけど、一緒に参加しているような気になってくる。

咲が作ったという曲はバラードだった。

ギターで軽くメロディを刻みながらの、短めの曲。タイトルも決まった音楽もないというその曲を聴いて、なぜだか涙が止まらなくなった。

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