一生に一度の「好き」を、全部きみに。

「こんなに好きなのに、他の女なんて目に入るわけないだろ」

そんなにふうに言われたら、どう反応すればいいのかわからなくなる。

「もしもの話……だよ」

「まだ言う? その口塞いでやろうか」

スッと伸びてきた咲の手が酸素マスクを横へとずらす。呆然とする私の目の前まで顔が迫ってきたかと思うと、一気に距離を詰められた。

「んっ」

優しく私に口づける咲。

柔らかい唇の感触に、キューッと甘く胸がうずく。

呼吸する隙を与えられず重ねられる唇に、さすがの私も恥ずかしすぎてギブアップ。

胸をトンッと叩いたら、今度は額をくっつけられた。

いやいや、この格好。ものすごく恥ずかしいよね。もしかするとキスしてるときよりも、もっとずっと……。

「わかっただろ?」

「な、なにが?」

「俺がどんだけ葵を好きか」

「……っ」

私の顔、ものすごく真っ赤。それでもって咲はスネたような目でじとっと睨んでくる。まだ怒っているらしい。

「まだ足りない?」

「ううんっ、もう十分伝わった!」

それでも酸素マスクを私の口に戻してくれる手つきは、腫れ物を扱うみたいにすごく優しい。

「ごめんね」

「別に謝ってほしいわけじゃない」

「ううん、ちがうの……」

本当はめちゃくちゃ嫉妬したんだ。

だからあんなふうに言っちゃったの。本当は嫌なのに、素直になれなくて……。隠した気持ちを口にはできない。

だから「ごめん」ともう一度謝って、私は頭を下げた。

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