一生に一度の「好き」を、全部きみに。

大きな病院だ。プライバシーはしっかり守られるだろう。それでも葵の手がかりになるようなことがあれば、どんな小さなことでもいいので教えてほしい。

「葵は無事なんですか?」

「ごめんなさい。守秘義務があるから答えられないの」

「俺も今医大に通ってるんで、それはわかってます。それでも葵のことが知りたい。お願いします、教えてくださいっ!」

直角に近い勢いで頭を下げた。

なりふりなんてかまってられず、ただ葵のことが知りたい一心だった。

先生の返事は変わらず「答えられない」の一点張り。思った通り想定内の反応。

そりゃそうだよな。個人情報をもらしたとなると、それこそ問題だ。

だけど俺だってすぐには諦められない。

葵の家にいって門番にたずねたけど、詳しく知らされていないのか『数年前に仕事の都合でアメリカに移住してから、一度も戻ってきていない』と教えられた。

打つ手なし。

どうすればいいと嘆く前に、できることを全部やる。

「またきたの?」

「教えてくれるまで何度だってきます。先生しか頼れる人はいないんで」

「あのねぇ、何度きたって答えは同じ。個人情報は教えられないの」

< 273 / 287 >

この作品をシェア

pagetop