一生に一度の「好き」を、全部きみに。
どこまでものびやかで、ずっと聴いていたくなるような、不思議な魔力を持った声。
しっとりとしたバラードも、パワフルな曲も難なく歌って多くの観客を惹きつけて魅了する。
ギターの腕もすごく際立っていて、歌声に負けない実力が備わっていた。
目を閉じると浮かんでくる光景に胸が締めつけられて苦しい。心臓が痛くて思わず左胸に手を当てた。
よかった……。
ちゃんと、動いてる。
私は生まれつきお母さんから受け継いだ拡張型心筋症を患っていて、小さい頃から何度も手術を繰り返してきた。
『大丈夫だ、葵の病気は絶対に治る』
お父さんは小さい頃から私にそう言い、私もそれを疑うことなく信じていた。
それなのに、ドナーがいなきゃ二十歳まで生きられるかわからないって……。
そしたら私はどうなるの……?
お母さんと同じように死んじゃうの?
『絶対に治る』
この世に絶対なんて言葉はない。
やりようのない気持ちを押し込めて歯を食いしばった。
走ることも、遊ぶことも、ツラい手術も治療も。乗り越えてこれたのは、絶対に治るって信じていたから。
急に目の前が真っ暗になって、気づくと家を飛び出していた。
いつか止まってしまう私の心臓。ほんのちょっと、他の人より早いだけ。どうせいつかはみんな死ぬんだ。
頭ではわかってるけど受け入れられない。
涙がじわじわ浮かんで、私はそれをまた指で拭った。