一生に一度の「好き」を、全部きみに。

「はぁ」

これから、どうしよう……。

ライブ終了後、夜の繁華街をあてもなく歩く。

スニーカーに薄手のグレーのパーカー、濃いめのジーンズを履いてツバのある帽子を目深に被った地味な私は、それだけでも目立つらしい。

すれ違う人たちからの好奇の視線が向けられていることに、気まずさを感じてしまう。

時刻は二十二時半。こんなに遅い時間に出歩くのは初めてで、それだけで悪いことをしているような気分。

道行く人はみんな楽しそうに笑っていて、とても楽しそうだ。あの人も、この人も、あっちの人も、みんな幸せそう。

いいなぁ、なんて感傷に浸ってみる。

なんだかもう、全部がどうでもよくなっちゃった。

がんばっても意味がないなら、もうなにもしたくない。

改めて周りを見回すと、遠くのほうに黒い人影が見えたような気がした。目を凝らしてみると、それは徐々にこっちに近づいてきている。

ヤバい。

に、逃げなきゃ……!

< 5 / 287 >

この作品をシェア

pagetop