一生に一度の「好き」を、全部きみに。

「はぁはぁ……!」

人混みをかき分けて、反対方向へととにかく全速力で駆け抜けた。

む、胸が、苦しい……。

ドクドクと鼓動が大きくなっていく。

走っちゃダメなのに、走っているせい。

細い路地裏は真っ暗で足元も悪く、何度も足がもつれて転びそうになった。腕を振って、足を前に踏み出して、うしろから聞こえてくる足音に耳を澄ませる。

「いたぞっ!」

「こっちだ!」

まずい。

挟み撃ちにされたら終わりだ。

うしろからたくさんの足音が聞こえるので、振り返らなくてもわかる。振り返ったら負けるということが。

逃げ切るには、とにかく前だけを見て走るしかない。

「はぁはぁ……! く、くるし……っ」

捕まったら終わり。

その一心で私はただひたすらに、どこまでも続く細い路地を走った。

うしろからの足音はまだ聞こえるけど、さっきまでほどたくさんのものじゃない。

数人、もしくはひとりかふたり。その程度。

これなら、()けるかもしれない。

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