一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「ねぇ、大丈夫? なんだか急に元気がなくなっちゃったから心配だよ」
電車に揺られながら花菜は私を上から見下ろす。血色のいい健康的なお肌に、桜のような薄ピンク色の唇。花菜のハの字に垂れた眉を見て、慌てて笑顔を作った。
「大丈夫だよ、ごめんね」
暗くなってちゃダメ。悔いのないように生きるって誓ったんだから。笑わなきゃ。でないと花菜が心配する。
「鳳くんとのこと、しつこく言いすぎたよね。ごめん!」
顔の前で両手をパチンと合わせて申し訳なさそうな表情を浮かべる花菜に、明るく笑い飛ばす。
「本当だよ。咲はただの友達なのに〜!」
そう、友達なんだ。
それ以上でも以下でもないの。
まるで自分にそう言い聞かせるかのように、私は花菜に向かって微笑んだ。
「友達って本気で言ってる?」
「え、うん? どうして?」
「あたしが鳳くんのことが気になってるって言ったら、どうする?」
「え? 気になってる……?」
ドクンと胸が弾んだ気がした。
いつの間に?
早くなにか言わなきゃ、変に思われる。だけど言葉が出てこない。
こんなとき、友達ならなんて言うべき?
いいと思うって言うべきかな?
それとも、応援してる?
がんばってね?
普通ならそうなんだろう。でもどの言葉も言いたくない。ウソになってしまうから。
「なーんてね。冗談だよ」
「え?」
「ごめんごめん、どんな反応するかなと思って。ごめんね」
冗談だと知ってホッとしている私がいた。
「今ホッとしたでしょ? それに、ちょっと顔が強張ってた。それが葵の本音なんだよ」
花菜にそう言われてなにも言い返せなかったのは、ズバリ言い当てられたから。
「試すようなことをしてごめんね。あたしは応援してるからさっ!」
すべてを察したような言い方に、私はだんまりを決め込んだ。