一生に一度の「好き」を、全部きみに。
地元の駅に着くと、ロータリーには迎えの車が停車していた。傘を広げた平木があたりをウロウロしている。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「ただいま」
「どうぞ」
「…………」
「お嬢様?」
花菜とバイバイしてからずっと心に引っかかっている。
どうしてホッとしちゃったんだろう。素直にふたりを応援したくないって思った。咲を取られたくないって、そんな最低なことを思った。
どうして……?
「どうかなさいましたか?」
「なんでも、ない」
私はゆっくり車に乗りこんだ。
流れゆく景色をぼんやりしながら見つめる。
「お嬢様、もしかして胸が痛いのでは?」
「え?」
「さっきからずっと左胸を押さえていらっしゃいますよね」
さすが平木、私のことをよく見てる。
「すぐにでも病院へ向かいましょう」
「ちがうよ、これは」
そんな胸の痛みじゃない。
「ちがわないですよ。緊急事態です」
「あのね、平木。聞いて。これはその、ちょっとモヤモヤしてるだけだから」
このままだと本当に病院に連れていかれかねないので、私は大慌てで弁解する。
「モヤモヤ?」
「私にだって言いたくないこともあるの」
「ですが、一度診ていただいた方がよろしいかと」