一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「神楽さん、急いで! ドアが閉まるよ! 俺たち先に乗って待ってっからー!」
すでに階段を登りきった黒田くんが叫んだ。その隣には咲もいる。
「はぁ、はぁ……っ」
手すりをつかみ大きく息を吸う。グラグラと目の前が揺れて、足を踏み外しそうになった。だけどギリギリのところで踏みとどまり、肩で息をする。
ヤバい、ダメ、かも。
立っていられなくて、その場にしゃがみ込んだ。
「葵、おい!」
近くで咲の声がしたけど、顔を上げることができなかった。
「大丈夫か? どうした?」
肩にふわっと手が置かれ、焦った様子の咲が顔を覗きこんでくる。
「具合いが悪いのか?」
「大丈夫、少し休んだら……落ち着く、から」
わざわざ戻ってきてくれたんだ。
「ごめん、電車……乗り遅れたね……」
「バカ、そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「また……バカって……言った」
「ちょっと黙ってろ」
そう言い咲は私の身体に腕を回すと、軽々と持ち上げた。
「さ、咲……?」
「ツラいんだろ? 寄りかかってていいから」
ぶっきらぼうだけど、安心させてくれる優しい言葉。
いいのかな?
甘えても。
「無理すんなって前にも言っただろ。こういうときは俺を頼って甘えろ」
「ありが、とう……」
不意に涙がこみ上げてきて、咲の声が優しく胸に染み渡った。