一生に一度の「好き」を、全部きみに。
教室では葵が椅子にちょこんと座って窓の外に目をやっていた。
「よう」
葵の前が俺の席。そこにスクールバッグを置くよりも先に小さな背中に声をかける。
「あ、咲。おはよう」
凛とした佇まいでお嬢様の風格をまとっている葵。色白だと思っていたけど、それはもしかすると病気のせいなのか。
唇の色も元に戻っている。
とりあえず元気そうでホッとした。
「昨日は迷惑かけてごめんね。ありがとう」
「気にすんなって。それより、もう大丈夫なのか?」
それしか言えないのかよ、俺は。
もっと他になにか気の利いた言葉があるだろ?
そう思っても、葵の口からそう聞かないと落ち着かない。
「大丈夫だよ。もう完璧元通り!」
にこやかな顔はいつもの葵だった。
やっぱり葵には笑顔が一番似合う。
女子に興味がないわけじゃない。これまで興味が持てるヤツがいなかったってだけだ。仲良くするのも面倒だし、集団で騒いでいるようなヤツらも苦手。
だから今まで極力女子とは関わらないようにしてきた。