一生に一度の「好き」を、全部きみに。

帰りに家の前で待ち伏せされたり、ロッカーに入れてたジャージがなくなるなんてこともよくあったから、女っていう生き物に不信感があった。

だけど葵はちがう。

仲良くなっても態度はムカつくままだし、生意気で女らしさのカケラもない。そのくせふわふわしてたり、ときどき今にも消えそうなほど儚げだったり。

そんな葵がなぜか気になる。理屈じゃなくて、感覚的に。

「咲ー、俺を置いてくなよ、お前!」

うるさいヤツがこっちにきた。

「神楽さん、おはよう!」

「おはよ、黒田くん。朝から賑やかだね」

「だって咲がさー、俺のこと置いてくんだもん。ひどいと思わない?」

「あはは、そうだね」

「やっぱり神楽さんは俺の味方? あ、これから葵ちゃんって呼ぶわ」

デレデレしている翔を見てたら、なぜだかモヤモヤした。

「じゃあ私も翔くんって呼ぶね」

「うん、サンキュ」

「ふふっ」

葵も、翔なんかに笑いかけるなよ。

ムカつくんだよ。

気に入らねーの。

って、なんでイライラしてるんだ、俺は。

一緒にいるとモヤモヤした感情が胸に渦巻いて、どうしようもなくなる。

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