一生に一度の「好き」を、全部きみに。
「……いない」
「え!?」
「だから、いないってば」
言いにくそうに小声で葵はつぶやいた。
その瞬間たとえようのない気持ちが胸いっぱいに広がり、モヤモヤが晴れていく。
ヤバい……うれしいとか、思ってる。
「だったらさっきそう言えよ……ムダに心配しただろうが」
「翔くんって、そういうの悪気なく茶化しそうだから。心配したって、なんで?」
キョトンとした表情で首をかしげる葵。
その仕草が女子っぽくて、なんだかとてもドキドキさせられる。
「な、なんでもねーよ。いちいち聞き返してくんなバカ」
まともに顔が見れなくなって、なんでもないフリをするのに精いっぱい。そんな目で見んなよ。俺の心臓壊す気か。
「またバカって言った。咲って都合が悪くなるとそればっかり。もう知らない!」
やべ、怒らせた。
だって葵が悪いんだろ。
俺をこんなにモヤモヤさせやがって。
葵のことになるとコントロールがきかなくて、ついつい感情的になる。
イライラするのも、モヤモヤするのも、ドキドキだって……全部、葵だから。
「こっち見んな、バカ」
「はぁ?」
「咲のマネだよ。ふーんだ! バカバカ!」
なんだこいつ、ガキかよ。
いや、でも……かわいすぎるだろ。
赤くなっていく顔を隠すように、俺は思いっきりそっぽを向いてやりすごした。