溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
人違いからのプロポーズ
おとぎ話のような運命的な出会いを求めてはいないけれど、現実はきわめて厳しく、険しい。
結婚、結婚、結婚。
この一年、何度その単語を聞かされただろう。
どんな言葉よりも多く耳にしているように感じるのは、気のせいではないはずだ。
それこそ耳にタコ。もう聞き飽きたワード、ナンバーワンである。
鶴岡美華は納得のいかない思いを抱えたまま、慣れない着物姿で外資系高級ホテル『エステラ』のロビーを歩いていた。
黄色い小花を散らした桜色の着物を着るのは、今回で二度目になる。一度目はひとつ年下の妹の由宇が結婚式を挙げるときだった。
いつも一本縛りにしている髪は美容院で緩くアップにされ、ナチュラルメイクでは着物に負けるからと、しっかりとしたメークを施された。
普段とかけ離れたスタイルをした美華は、これからある男性に会うことになっている。
恋愛の気配がまったくない彼女を心配した父の正隆が、自身ご自慢の部下と引き合わせたいというのだ。
一年前に由宇が二十五歳の若さで結婚して家庭をもったため、両親からしてみると二十七歳の美華は行き遅れに分類されるらしい。
いまどきの二十七歳といったら、結婚していなくてもなんらおかしくないというのに。
いったいいつの時代の結婚観なのか。
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