溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
ボーッと突っ立っているわけにはいかず、ゆっくりと足を進める。
会場の入り口付近には、たくさんのお祝いの生花が並んでいた。名札には名だたる企業の名前がずらり。
そうそうたる顔ぶれだった。
(私、こんなにも大手の企業を相手にする会社の社長に、本当に嫁ぐの? 大丈夫なのかな……)
つい先ほど博人の母親によろしくと言われ、元気いっぱいに返したが、突然大きな不安に襲われる。
現実を目の当たりにして迷いが出てきた。
トボトボとレストルームに向かい、個室に籠る。洋式の蓋を閉じ、そこに座り込んだ。
これまでは激流に飲み込まれるようにして時間が過ぎ、深く考えるだけの材料が揃っていなかった。自分がどういう人と結婚しようとしているのかが改めてわかり、大きなうねりに心が翻弄され始めたのだ。
博人と出会ってからの疲れが一気に出た気がする。
美華が個室でため息を漏らしたときだった。
「藤堂社長、今日の就任パーティーで奥さんをお披露目するんだって」
女性の話し声が聞こえてきた。