溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜

痛烈なひと言が美華から血の気を奪っていく。

女性たちは美華を話題に、楽しそうな声を立てながらレストルームから出ていった。

彼女たちの話が、美華の胸を鋭くえぐる。
博人が結婚相手を急いで捕まえる理由は、そこにあったのだ。
父、潤一郎に応えるため。

なにかにつけて唐突な博人の強引さが、今になって度を超えていると感じる自分の鈍さが悲しい。

美華の身体を求めなかった理由も頷ける。気持ちが伴っていなくても男は身体の関係をもてるというのは、博人に当てはまらないだけだ。
博人のような洗練された男が気に入ったから結婚しようと言えば、美華なら簡単に落ちると考えたのだろう。

綺麗に着飾らせ、みんなの前で披露すれば用済み。一度顔を見たくらいでは、招待客は美華の顔などすぐに忘れる。
その後に正真正銘の妻が現れたとしても、誰も不審がらないのではないか。

たったひと言の『その後はポイ』が、博人と縮まりつつある距離を急速に引き離していく。

それはおそらく、出会って二週間しか経っていないふたりの信頼関係が、あまりにも脆弱だからだろう。

それと同時に、見ず知らずの人から放たれた言葉からこれほどの衝撃を受けるほど、自分の心が博人に染まっていることを思い知る。

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