溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
「時間だ。行こう」
無視するのもどうかと思ったか、竹下に会釈をして博人が美華の手を取る。
ここで嫌だと言って彼を困らせたくはない。自分が今ここにいる意義は、博人の妻として紹介されることだけだから。
美華は素直に従った。
何人の招待客がいるのか知らないが、広い会場内は熱気に包まれている。
美華たちはパーティーを進行する司会者の近くで、そのときを待っていた。
滞りなく会が進み、いよいよ社長就任の挨拶となる。
壇上にひとりで上がった博人は、社長らしく堂々とした立ち居振る舞いで、自己紹介からスピーチを始めた。
「十年後、二十年後、日本も世界もドラスティックに変わります。今一度アクセルを踏んで、ビルドポートの進化のスピードを速め、世界の人々や企業が国籍を越えて新しい価値やライフスタイルを創造できる設計を実現していきます」
抑揚と強弱をつけ、熱心に語る博人の背中をスポットライトの外から見つめる。
ビルドポートや建築の世界をよく知らない美華でも鼓舞され、よりよい未来を築き上げたいと思うようなスピーチだった。