溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
彷徨う心
美華の姿が見えないと博人が気づいたのは、会場を出て取引先と挨拶を交わし終えたときだった。
少し離れたところで待っているとばかり思っていたが、いったいどこへ行ったのか。
レストルームかと思い、しばらく待ってみたが戻る様子はまったくない。
(嘘だろ、どこ行ったんだよ。……まさか)
会場入りする前に美華が竹下といたことを思い出した。
(まさかアイツが……)
嫌な予感が、一瞬で博人の脳裏を駆け巡った。
弾かれたようにその場で身を翻し、まだ残っている招待客の波をかき分ける。
(どこだ。アイツはどこにいる)
時折、人と肩がぶつかり、謝りながら方々を走り回る。そうしてエントランスまでやって来たとき、竹下の横顔が一瞬見えた気がした。
スピードを速めてドアまで急ぐ。
その足音に気づいた彼が振り返った。しかし、美華は一緒ではない。
博人を見て、竹下は顔をしかめた。
「美華を知らないか」