溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
呼吸を弾ませながら、不躾を承知で尋ねる。
「どうして僕に聞くんですか」
嫌味っぽく言われて当然だろう。
「申し訳ない。彼女の姿が見当たらないんだ」
この際、余裕ぶっている場合ではない。カッコつけたところで、美華がいなければ話にならないのだから。
竹下は鼻を鳴らして、あざ笑うようにした。
「美華さん、さっきなにか思いつめたような顔をしてましたよ」
「……美華が?」
そんな顔をする理由が博人にはわからない。
両親にも無事会い、反対されたわけでもないのだ。
「そうそうたる企業の顔ぶれを見て、ちょっと思うところがあったんじゃないですか。あとは、社員たちの噂話が耳に入ったとか」
「……噂話?」
「今日のお披露目のためだけに用意した花嫁だとか。それが済めば用済みだとか。僕の耳に入るくらいですから、美華さんもどこかで聞いたのかもしれませんね」