溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜

竹下は憐れなものでも見るかのような目をした。

(お披露目のためだけに用意した? 終われば用済み? なんの話だ)

博人には身に覚えが全然ない。
社員のうちの誰かがおもしろおかしくそんな話をして、それに尾ひれがついたのだとしか考えられなかった。

美華がそんな噂話を鵜呑みにしたのだとしたら、博人の前から姿を消したくなる気持ちもわかる。
竹下に礼を告げ、エントランスから外へ出る。

スマートフォンを取り出し、彼女の電話番号をタップした。ところが、何度かけなおしても、出る気配がない。
呼び出し音が延々と鳴るだけで、美華の応答がいっさいないのだ。


「くそっ! どこに行ったんだよ」


苦々しくひとり言を吐き、ホテルの敷地から出た。

出会いこそ、このパーティーが目的のお見合いだったが、それは本当に最初だけ。美華と話すうちに〝この子だ〟と直感したのだ。
そんな女性と出会えると思っていなかったため、あまりにうれしくて友人に『運命だな』と浮かれて話したくらいだ。

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