溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
(だいたい由宇が早く結婚しすぎなのよね。姉のことも少しは考えてほしいわ)
恋愛経験のなさを棚に上げ、妹に責任転嫁をする。そうでもしないと気持ちの収まりがつかなかった。
着物に釣り合わない足取りで、ロビーに草履の音を響かせて歩く。
(あれ? 待ち合わせはロビーラウンジだっけ?)
正隆の話を適当に聞いていたため、記憶が曖昧だ。
同行すると言っていた正隆を美華は断った。お見合いのような堅苦しい席にしたくなかったからだ。
そもそも相手も上司からお願いされて渋々受けただろう。ふたりだけで会えば互いに断りやすい。
軽くお茶をして、〝まだ結婚は考えられないので〟で終わりにできるだろう。
その割に着物で意気込んでいるように見えるのは、母の弥生たってのお願いを聞き入れたためだった。
普段着に毛が生えたような格好を考えていた美華を見透かし、先回りして美容院に着付けを予約していたのだ。
『一緒に行かないんだから、せめて着るものだけはちゃんとして』